Yoko's 人生=旅 on this Blue Planet
高速回転中の青い惑星地球、負けじと走り回る一人の記録。
小出裕章:エネルギー、核融合、トリチウム 〜 核融合研究グループ(於、箱根) 2000年10月30日(月)、31日(火)
2000年に核融合研究グループに招集された際に、小出先生が作成したトリチウムに関する資料です。

核融合研究グループ(於、箱根) 2000年10月30日(月)、31日(火)
エネルギー核融合トリチウム
京都大学 原子炉実験所  小出 裕章



Ⅰ.エネルギー問題とは?

―――資源を供給することが大切なのか、それとも環境破壊を防止することが大切なのか?―――

 人類を他の生物種と区別する要因には、いくつかのものがある。しかし、人類が火を使うことは重要な要因であろうし、人類が地球上で急激に勢力を伸ばしてきた最大の要因は大量のエネルギーを使用できるようになったことである。当然、人類にとってエネルギーの供給問題は重要である。しかし、人類の急速なエネルギー消費によって、地球の生命環境はこれまた劇的な変貌を余儀なくされてきた。近年では、エネルギーの供給よりは、むしろエネルギー消費による環境破壊がますます重要な課題となってきたし、その傾向は今後一層はっきりとしてくるに違いない。
核融合はエネルギー供給の切り札のようにいわれてきたが、それがもたらす影響をプラスの面もマイナスの面も複合的にとらえる必要がある。


Ⅱ.エネルギー消費の歴史と

エネルギー資源


A.人類のエネルギー消費の歴史

 宇宙の誕生は150億年前、地球のそれは46億年前、種としての人類の誕生は400万年ほど前のことだそうだ。その人類が生まれて以降のエネルギー消費量の変遷を右の図に示す。
 人類が急激にエネルギー消費量を増やしてきたのは、産業革命が起こって以降のこの200年のことである。地球誕生の46億年を1年とすれば、人類が誕生したのは大晦日の午後4時過ぎ、人類の急激なエネルギー消費が始まったのは、大晦日の夜11時59分59秒になってからのことでしかない。

blog エネルギー消費とエネルギー資源.jpg


B.化石燃料はいつ枯渇するか?

 産業革命以降の人類のエネルギー消費を支えたのは、化石燃料である。化石燃料は地球の長い歴史の中で蓄えられてきた資源であり、それを人類が消費すれば、資源量が減少することは避けられない。当然いつかは枯渇する。特に、現代の西欧型文明が主として依拠している石油については、その枯渇が懸念されてきた。私自身が一度は原子力に夢をかけようとした主とした動機もその点にあった。

 では、石油はいつ枯渇するのだろうか? それを考えるために、石油の可採年数推定値の変遷を右の図に示す。1930年における石油可採年数推定値は18年で、それは長く続く戦争の強力な動機の一つとなった。それが10年たった1940年には、逆に23年に延びた。しかし、それでも石油権益を確保することは列強諸国の深刻な課題であり続け、第2次世界戦争の動機となった。しかし、戦争が終わった1950年になっても、石油可採年数は20年であった。本来であればこの時点で、石油可採年数推定値には大きな不確かさがあり、それには単純な石油埋蔵量の推定だけでなく、世界の政治状況、個々の国の事情などが複雑に絡み合っていることをしっかりと認識すべきであった。それから10年たった1960年には、石油は枯渇するどころか、可採年数が35年に延びた。それでも、石油があと30年程度しか保たないという推定は、人類に対して化石燃料の枯渇を心配させるのに十分な力を持っていた(私自身も、それを心配した一人であった)。しかし、それから30年たった1990年になっても石油は枯渇するどころか、可採年数は45年に延びたのであった。

blog 石油燃料はいつ枯渇?


C.核分裂エネルギー資源(ウラン-235)

 化石燃料は地球が長い年月をかけて蓄えてきた資源であり、消費すればなくなることは当然である。そうした資源を「再生不能資源」という。したがって、化石燃料はいつか枯渇する。そして、「化石燃料は近い将来枯渇するので、人類の未来のエネルギー源は原子力」といわれた。しかし、核分裂エネルギーを利用する原子力の燃料はウランであり、それもまた使えばなくなる資源である。そうであれば、問うべきは化石燃料とウランの資源量の多寡である。その点を右の図に示す。

blog 核分裂エネルギー資源

 事実を虚心坦懐に視るのであれば、「原子力の資源であるウランは貧弱であり、当面は化石燃料に依存するしかない」というのが正しい。


D.核分裂エネルギー資源(プルトニウム)

 ウラン資源が乏しいことは原子力開発の当初から分かっていた。当然、核分裂エネルギーを意味のあるエネルギー源とするためには、プルトニウム利用の道を開く必要がある。しかし、そのために必要な高速増殖炉は技術的・経済的・社会的な課題が大きすぎて、世界的に行き詰まってしまっている。その上、仮に高速増殖炉が理想通りに実現できたとしても、核分裂エネルギーの資源量は60倍になるだけでようやく石炭に匹敵する程度の資源でしかない。更にその上、完璧な高速増殖炉計画が実現できても、「倍増時間」1)が極端に長くて、今日のようなエネルギー多消費を前提にする限り意味のあるエネルギー資源にはなりえない。

 もともと、「核分裂は核融合実現までのつなぎのエネルギー」といわれたが、結局プルトニウムもエネルギー資源としては意味がない。

blog 核分裂エネルギー(プルトニウム)


Ⅲ.エネルギー消費による環境破壊

A.20世紀における急激なエネルギー消費

 地球上の新参生物の一種である人類が、地球上で厖大なエネルギーを消費し始めたのはわずか200年前のことである。人類が400万年かけて消費した総エネルギーの内訳を右の図に示す。

blog 人類エネルギー消費量

20世紀といわれるこの100年で人類が使ったエネルギーは、400万年の人類の全歴史で使ったエネルギーの6割に達する。19世紀の100年を加えれば、産業革命以降の200年で、400万年の全人類のエネルギー消費の6割以上を使ったことになる。当然、一見豊かになったようにみえる生活の裏では、廃物の問題も深刻さを増している。二酸化炭素の増加が地球全体の気象環境を変えようとしていることは有名だし、ダイオキシン、産業廃棄物、放射性廃棄物、環境ホルモンなどなど、私たちが日夜大量に生み出し続けている廃物は、処分の方策がないまま、じわじわと人類の生存可能環境を蝕むことになった。


B.危機的な日本の状況

 日本におけるエネルギー消費の実績を次頁右上の図に示す。日本は特に第2次世界戦争後、1970年代前半迄、年率10%という急激な勢いでエネルギー消費を拡大してきたが、過去120年に渡って続いてきたエネルギー浪費の構造を維持するかぎり、日本の環境が人間にとって耐え難くなるのはそう遠い将来ではない。

blog 危機的な日本の状況

地球上の生命活動はすべて太陽によって支えられていることは言うまでもない。そして、太陽が地球に降り注ぐエネルギーのうち0.2%に相当する部分によって、風や波、大気の循環などが生じていると言われている。現在の日本では、日本全土に降り注ぐ太陽エネルギーの0.6%に匹敵するエネルギーを人為的に発生させている。そしてまた過去120年にわたって、平均すれば年率4.5%の割合でエネルギー消費を増加させてきた。このままエネルギー消費の拡大を続けるならば、西暦2000年を超える頃には太陽エネルギーの1%、2050年には10%、2100年には太陽が我々に与えてくれているエネルギーと等しいだけのエネルギーを人為的に消費することになる。そうした時代がどんな時代になるか人類には経験がない。またそれを予測できるような学問もない。しかし、かりにその時代の日本において、まだ人が生きられたとしても、従来と同じスピードでエネルギー浪費を続けるかぎり、2150年には太陽エネルギーの10倍、2200年には100倍のエネルギーを使うことになってしまう。そのような未来に人類が生き延びられないことは当然である。


C.危機が顕在化する時と場所

  ただし、危機は日本だけにあるのではない。世界各国における人為的なエネルギー消費量を、その国が受ける太陽エネルギー量の比として図示すると次頁右上の図となる。

blog 人為的エネルギー消費量と太陽エネルギー

 消費エネルギーの太陽エネルギー入射量に対する比が日本より多い国ももちろんある。例えば香港やシンガポールがその例であるが、それらの国は国土面積が狭く、環境は周辺の国々と共有している(むしろ、周辺の国の環境に負担をかけながら、自国の環境を維持している)。また、東京・大阪といった巨大都市を考えれば、ごく狭い地域的な人口エネルギー消費量は太陽エネルギーを超えている場所すらありそうである。当然、ヒートアイランドなど都市の問題はすでに顕在化している。いつ、エネルギーの消費が環境のバランスを決定的に崩すことになるかを予測するのは容易でないが、おそらくは依存している環境の面積と消費エネルギーの多寡によって決まるであろう。その意味では、日本よりもヨーロッパの方が厳しい可能性がある。


D.地球生態系の破壊

blog 地球生態系の破壊

 いずれにしても、人類の急激なエネルギー消費が続く限り、環境の危機は遠からず訪れる。というよりは、すでに環境の危機はとうに訪れている。人類は自らを「霊長類」と名付けたが、地球上で自らが生存していくためには、他の多数の種の生存が前提である。しかし近年になって、人類は人類以外の生物種を急速に絶滅に追い込んでいっている。

 従来の種の絶滅は、その生物種から視れば、外的な、万やむを得ない要因で訪れた。しかし、人類は自ら準備し、他の多数の種を伴って絶滅に至る。


Ⅳ.核融合は実現するか?

A.山積する技術的課題

 核融合研究者は、核融合は遠からず実現できるかのように主張する。しかし、1958年、第2回原子力平和利用国際会議の場で、議長であったインドのバーバ博士が核融合の実現は20年以内にやってくると予言をして以降、その実現予想期限は10年たつと倍に延びるといわれるようになり、すでに21世紀内の実現すらが絶望視されるに至っている。

 一時は、核融合はクリーンエネルギーであるかのように宣伝された。しかし、現在わずかながらも実現の可能性があると思われているのはD-T核融合であり、その反応では、燃料に放射性物質であるトリチウムを用いる(その点に付いては次項で述べる)し、反応で必然的に中性子が発生するため、炉本体を中心とした放射化は原理的に避けられない。

 さらに、数億度のプラズマを安定的に閉じこめるという基本的な難題の解決も先が見えない。核融合は地球上に無尽蔵にある水素を燃料にする等という宣伝も嘘であり、燃料であるトリチウムを生産するためのリチウムなどの資源も多くない。

 核分裂エネルギーの場合もそうであったように、開発初期には、その利点のみが強調される。しかし、開発当初から、利点と欠点の両者をきちんと評価するようにならねばならない。


B.トリチウム問題

 今日のグループの主要な関心事はトリチウムにあるようなので、その点に触れる。
 D-T核融合の基本式は、

blog 数式1

である。この反応で発生するエネルギーを燃料であるトリチウム1gあたりに換算すれば、

blog 数式2

となる。一方、電気出力100万kW(1GW)の核融合発電炉を考え、その熱効率をε、年間の設備利用率をηとすると、年間の熱出力の総計は

blog 数式3

となる。今日の原子力発電所と同様にε=0.33、η=0.8とすれば、876GW・d/yとなる。したがって、この出力エネルギーを得るために必要なトリチウムの重量は、結局

blog 数式4

となる。
半減期12.3年のトリチウムの比放射能は

blog 数式5

であるから、先に計算した133kgというトリチウムは4.8×1019Bq(1.3GCi)に相当する。

 宇宙線によって生成されているトリチウムの地球上での平衡存在量は17MCi~27MCi、核実験が生み出した総量は1.7GCi~1.9GCiといわれており2)、それらを比較のため一覧表にすると下の表となる。

blog 表1

また、軽水炉の使用済燃料中の放射性核種の毒性(経口摂取に関する年摂取限度(ALI)との比として考える)と、核融合炉1基が1年間に燃やすトリチウムの毒性(同上)を比較すると右中の表となる。

blog 表2

 核融合炉で燃やすトリチウムの毒性が軽水炉が生み出す放射性核種のそれより幾分低いとはいうものの、決してクリーンといえるようなものではない。

 さらに、トリチウムは水素同位体であり、閉じこめがもっとも難しい核種であるし、環境に出てしまえば、水素の交換反応で容易に水となる。水は生命体にとって必須の物質である上、どんな水処理技術を用いても、水であるトリチウム水を通常の水から分離して除去することもできない。しかるに、たった1基の核融合炉が、天然起源の平衡量の100倍、過去の核実験が放出したトリチウムの総量と比べても同程度のトリチウムを毎年燃料として燃やすことになる。核融合炉が一体いつの時点で実用化されるのか分からない。仮にそのようなことが可能になるにしても22世紀以降であろうし、その時のエネルギー消費量は現在よりも更に多くなっているのであろう(現在より多くならないと言うのであれば、核融合炉などもともと作る必要がない)。

blog 次世代エネルギー生産量

そして、そのような時代のエネルギー供給の救世主として核融合炉を構想するのであれば、世界中で1万基、、あるいは10万基の核融合炉を動かす必要があるだろう。、あるいは10万基の核融合炉を動かす必要があるだろう。


C.トリチウムによる被曝


天然のトリチウムの平衡量を20MCi(0.02GCi、740PBq)とすれば、年間の生成量は1.1MCi(42PBq)をなる。そして、核実験によって平衡存在量の100倍に及ぶほどのトリチウムが放出されたが、その汚染が生じる前の地球上のトリチウム濃度はおよそ数TR(トリチウム比、T/H=10-18)であった。1TRの水の比放射能は1.2x10-4Bq/cm3である。天然で生成されるトリチウムについて、人間の被曝に寄与する陸圏の濃度を10TRとしておけば、1.1MCi(42PBq)が毎年生成されることにより、水中のトリチウム濃度は1.2x10-3Bq/m3になっていたことになる。一方、現行の法令による放射線施設敷地境界外に放出が許されるトリチウム濃度は60Bq/cm3であり、それが年間1mSvの被曝量に相当する。したがって、天然起源のトリチウムによる被曝量は2x10-5mSv/y (1[mSv/y] x (1.2x10-3)/60 ) となる。すでに述べたように、核融合炉1基は、年間1.3GCiのトリチウムを燃焼させる。そのうち1000分の1が環境に漏洩するとすれば1.3MCiであり、天然の年間トリチウム生成量にほぼ等しくなり、天然寄与とほぼ同等の被曝を生じるであろう。

blog トリチウム生産量

仮に、1万基の核融合炉が動くとすればトリチウムによる被曝は天然起源トリチウムの1万倍0.2mSvとなる。また、10万基が動くとすれば2mSvとなって、人類全体が公衆の線量限度の2倍の被曝を受けることになる。また、核融合炉近傍の住民は、地球全体に拡散したトリチウムから受ける被曝に比べれば、桁違いの被曝を受けるであろう。当然、先に仮定した1000分の1の漏洩は認められないということになるだろうし、漏洩率をどれだけに抑えるべきかという議論も起きるであろう。しかし、そもそも、そのような議論をしなければならないほどの危険を抱えたものであり、そのような装置を作ってまでエネルギー供給をすることが得策かどうかをまず問う必要がある。

blog 燃焼量


Ⅴ.おわりに

 言うまでもなく核融合はエネルギー源として構想された。しかし、現在重要なことは際限なくエネルギーを供給することではなく、エネルギー浪費による環境の破壊を如何に防止するかである。

 また仮にエネルギー供給が必要だとしても、その手段については、メリット・デメリットを広範な観点から考えて選択しなければならない。ところが日本では、右の図に示すように、エネルギー研究開発費は核融合を含む原子力に極端に偏っていて、なにがなんでも原子力ということで今日まで来てしまった。

 せめてサイエンスに立脚する人間として、事実を見据え、広範な視野を持って考えたいものである。

blog 1996年エネルギー研究開発費


【注】
(1) INFCE第5部会報告書(1980)

blog INFCE第5回部会報告書(1980)


(2) 日本原子力学会、トリチウム、その性質と挙動(1972)


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テーマ:自然科学 - ジャンル:学問・文化・芸術

コメント
この記事へのコメント
小出さんが昔っからトリチウムの危険性に警鐘を鳴らしておられたのが分かりました。
2014/12/27(土) 19:48:59 | URL | ちたりた #A66/fvmY[ 編集]
ちたりたさんへ。
ちたりたさん、こんばんは。

> 小出さんが昔っからトリチウムの危険性に警鐘を鳴らしておられたのが分かりました。

放射性物質で一番恐いのは、ストロンチウムとかではなく、水を水でなくしてしまうトリチウムかも知れませんね。地上に太陽を造ると云う核融合は、原子炉も管理制御できない人類から見れば、もう超のつく恐い存在。
目先のカネにつられて適当なことをするのは、いい加減止めて欲しいですね。
2014/12/28(日) 18:28:31 | URL | yokoblueplanet #-[ 編集]
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