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弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(16)緊急事態条項は、危険、有害かつ不必要である(その4)2016.7.31. 〜(20)(その8) 2016.8.
1)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(16)緊急事態条項は、危険、有害かつ不必要である(その4)2016.7.31.


緊急事態条項は、危険、有害

かつ不必要である(その4)

 諸外国でも緊急事態条項の悪用や濫用の事例は枚挙にいとまがないほどである。以下に掲げるのはそのほんの一部に過ぎない。

ドイツの場合・・・ナチス政権登場の前夜
 ドイツでは、第一次大戦の敗北により帝政が崩壊し、政治の民主化が急速に進行し、1919年、当時、世界で最も民主的と評価されたワイマール憲法が制定された。
 同憲法54条によると宰相も各大臣も議会の不信任決議があった時は辞任しなければならないとされており、議会の多数派の信任を得て内閣を構成する議院内閣制を志向していた。しかし他方で、第53条では、大統領には憲法上は何ら制約のない宰相及び各大臣の任免権が認められていた。つまり大統領内閣制である。このためにワイマール憲法下の内閣は、二人の主人を持つと評されていた。
 かくして元来、内閣の政治的基盤は不安定であった上に、議会が不信任決議をするにあたって、次の宰相や各大臣を選出することは義務づけられておらず、政争の果てに無責任な不信任決議が繰り返された。
 ワイマール憲法の定める統治機構は、政治的混乱と動揺をもたらす構造的欠陥を孕んでいたのである。

注:現在のドイツ憲法(ボン基本法)は以下のようい規定している。

第67条(不信任投票)
① 連邦議会が連邦宰相に対して不信任を表明できるのは、その議員の過半数をもって後任を選出するとともに、連邦大統領に対しては連邦宰相の否認を要請した場合に限られる。連邦大統領は、この罷免要請に応じるとともに、被選出者に対する任命を行わなければならない。
② 略


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2)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(17)2016.8.1.


緊急事態条項は、危険、有害かつ

不必要である(その5)

ドイツの場合・・・パーペンの虜囚から独裁者へ

 1933年1月、偉大な奇跡が起こった。日の目を見る筈もなかったヒットラー内閣が、パーペンとヒンデンブルグの介助によって産み落とされたのだ。




 だがヒットラー内閣には、ナチスからはヒットラーのほかには2名しか入閣しておらず、ヒットラー自身もパーペンの虜囚になったのだとさえうそぶいていたということだし、パーペンはヒットラーを雇ったと豪語している。ヒンデンブルグも、以前からヒットラーを「ボヘミアの伍長」と呼んで蔑んでいたことは有名な話である。 きっとパーペンもヒンデンブルグも、殊勝なヒットラーの態度を見て、ヒットラーを、当面、利用できるだけ利用し、時がくれば手を切ればよいと踏んでいたに違いない。彼らはヒットラーの狡猾さとナチスの突破力をあなどっていたようだ。
 ヒットラーは首相になるや、ナチス突撃隊(SA)に暴力的街頭行動を展開させ、その圧力のもとに暴走を始める。高齢のヒンデンブルグも野心家のパーペンも、逆にヒットラーとナチスの虜囚になってしまった。
 ヒットラーが首相に就任してからナチス独裁体制とワイマール憲法の安楽死までわずか2カ月弱、まさに一瞬の間のできごとであった。その梃子になったのがワイマール憲法48条の大統領非常措置権なる緊急事態条項であり、これこそ緊急事態条項を悪用もしくは濫用した顕著な事例である。

注:ワイマール憲法48条(大統領非常措置権)
① ドイツ国内において、ドイツ国憲法あるいはドイツ国法律に付随する諸義務が履行されない事態が発生した場合、ドイツ国大統領は武力を用いて事態に対処することができる。
② ドイツ国内において公共の安全や秩序が著しく乱され、公共の安全や秩序を回復するための措置をとる場合、ドイツ国大統領は、必要ならば、武力を用いて介入することができる。この目的のためにドイツ国大統領は一時的に、114条(人身の自由)、115条(住居の平穏・不可侵)、117条(信書等の秘密)、118条(表現の自由・検閲の禁止)、123条(集会の自由)、124条(結社の自由)及び153条(財産権の保障等)で規定された基本権利の全て、またはその一部を停止することができる。
(以下略)

 ヒットラーは、今やナチスの陰謀説が定着している同年2月27日の国会放火事件を最大限利用した。ヒットラーは、翌日、この大統領非常措置権に基づき、虜囚として思いのままに動かせる存在と化したヒンデンブルグをして、上記の七箇条の基本権を停止し、無令状による逮捕、捜索、押収及び予防拘禁を認める「民族及び国家の防衛に関する大統領令」を発令せしめた。


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3)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(18)2016.8.2.


緊急事態条項は、危険、有害かつ

不必要である(その6)

フランスの場合・・・立憲主義に分け入った「民主独裁」の伝統

 究極の緊急事態条項である戒厳令のプロトタイプは、フランス革命さなかの1791年7月制定された「合囲状態法」(état de siègeエタ・ド・シェジュ)である。意外に思われるかもしれないが、戒厳令の母国はフランスなのだ。フランス革命は、一方でフランス人権宣言、1791年憲法により立憲主義を高らかに宣言したものの、内外の敵から革命の成果を守るために「民主独裁」で武装したのである(因みに、歴史は、ロシア革命後のソ連でも「プロレタリアート独裁」の名の下により悲劇的な軌跡を描いた。)。
 そのフランスの現行憲法第五共和制憲法にもその伝統は、色濃くその母斑を留めている。
 フランスでは、アルジェリア独立戦争による危機を乗り切るために強い大統領を標榜したシャルル・ド・ゴールが大統領に選出され、その下で1958年10月、現在の第五共和制憲法が制定され、第16条に「大統領緊急措置権」(緊急事態条項)が設けられた。

注:フランス憲法第16条
① 共和国の制度、国の独立、その領土の一体性あるいは国際協約の履行が重大かつ直接的に脅かされ、かつ、憲法上の公権力の適正な運営が中断されるときは、共和国大統領は、首相、両院議長、ならびに憲法院に公式に諮問したのち、これらの事態によって必要とされる措置をとる。
② 大統領は教書によりこれらの措置を国民に通告する。
③ これらの措置は、最も短い期間内に、憲法上の公権力に対してその任務を遂行する手段を確保させる意思に則ってとられなければならない。憲法院はこの問題について諮問される。
④ 国会は当然に開会する。
⑤ 国民議会は緊急権の行使の間は解散されない。


 1961年4月22日、アルジェリア独立戦争のさなか、アルジェリアにおいて、独立に対し柔軟姿勢に転じたド・ゴールに反対し、4名の退役将軍が部隊を率いて決起した。彼らは、「最高司令部」の設立を宣言し、アルジェリア全土に「戒厳令」を布告した。それにとどまらず、反乱軍は本国の軍内極右分子と連繋し、パリ進撃の気配を見せた。
 これに対し、23日、ド・ゴールは「緊急権」を発動し、反乱軍の鎮圧を宣言した。同時にフランス本土では労働者、学生、市民が反乱を糾弾する行動に立ちあがった。こうした状況で、反乱軍は孤立し、25日には反乱軍は崩壊するに至り、最終的に26日までには完全に鎮圧された。しかし、23日に発動された緊急権は9月30日になるまで維持された。


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4)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(19)2016.8.3.


緊急事態条項は、危険、有害かつ

不必要である(その7)

日本国憲法は緊急事態条項を拒否し、排除した

 ご承知のとおり、日本国憲法には緊急事態条項は設けられていない。これを目して憲法に不備があると主張する人たちがいる。その急先鋒は自民党であり、安倍首相である。だがこの主張はデマゴギーに類するものである。日本国憲法は、意識的・積極的に緊急事態条項を拒否し、排除しているのだ。

 まず、恒久平和主義を基本原理として採用した憲法が、戦争や武力抗争など有事を想定とした緊急事態条項を排除したことは言うまでもない。

 では自然災害などその他の非常事態に関してはどうだろうか。その場合にも、日本国憲法は緊急事態条項を拒否し、排除しているのである。そのことは、憲法制定過程における議論によって確認できる。

 日本国憲法制定において八面六臂の活躍ぶりを示した金森徳次郎国務大臣(憲法問題担当)は、第90帝国議会(憲法制定議会)衆議院憲法改正案委員会において、いくたびか政府を代表して答弁に立ったが、その中で、緊急事態条項に係る重要なやりとりがなされている。煩を厭わず議事録によって確認しておこう。

第3回委員会(1946年7月2日)金森憲法担当相答弁

「緊急勅令其の他に付きましては、緊急勅令及び財政上の緊急処分は行政当局者に取りましては実に調法なものであります、併しながら調法と云ふ裏面に於きましては、国民の意思を或る期間有力に無視し得る制度であると云ふことが言へるのであります、だから便利を尊ぶか或は民主政治の根本の原則を尊重するか、斯う云ふ分れ目になるのであります、そこで若し国家の仲展の上に実際上差支へがないと云ふ見極めが付くならば、斯くの如き財政上の緊急措置或は緊急勅令とか云ふものは、ないことが望ましいと思ふのであります、併し本当に言って、国家には色々な変化が起り得るのでありまするが故に、全然是等の制度なくして支障なしとは断言出来ませぬ、けれども我我過去何十年の日本の此立憲政治の経験に徴しまして、間髪を待てないと云ふ程の急務はないのでありまして、さう云ふ場合には何等か臨機応変に措置を執ることが出来ます、随て緊急の措置を要しまするのは稍々余裕のある事柄であります、して見れば、さう云ふ場合には、臨時に議会を召集すると云ふ方法に依って問題を解決することが出来る、又臨時に議会を召集することが出来ない場合が考へられます、それは衆議院が解散され、末だ新議員が選挙せられない所の三、四十日の期間ガ予想せらるるのでありますが、其の時には何ともしやうがない、そこで参議院の緊急集会を以て暫定的に代へる、斯う云ふことが考へられます、尚且つ考ましても色々御意見は起り得ると思ひます、例へば咄嗟の場合に交通断絶其の他の場合に、如何に適当の処置をするかと云ふ時には、今後色色な工夫を致しまして、さう云ふ非常の場合に処する僅がばかり臨時措置の規定を必要なる法律等に編込み、大体是は警察法規等が主眼をなすものと思ひまするが、特別な場合ニ梢々臨時措置をなし得るやうな規定を平素から予備して置くと云ふのも、一つの考へ方であらう思ひます、或は又財政上の緊急処分の点に付きましては、例へば議会に於て必要なる予算の成立を見ることが出来ない、而も経費を支弁すべき時期は差迫って居る、どうするかと云ふやうな場合が考へられますが、是は議論で解決するのではなくして、政府と議会とが一心の如く合体して居りますならば、そこに自ら途が開かれて来るのでありまして、今期議会に於て始まりました所の此の暫定の予算と云ふが如きは、此の方法に於て一道の光を与へて居るものと思ふ訳でございます」

第13回委員会(1946年7月15日)金森憲法担当相答弁

「現行憲法に於きましても、非常大権の規定が存在して居ったことは今御示しになった通りであります、併しながら民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護致します為には、左様な場合の政府一存に於て行ひまする処置は、極力之を防止しなければならぬのであります、言葉を非常と云ふことに藉りて、其の大いなる途を残して置きますなら、どんなに精緻なる憲法を定めましても、口実を其処に入れて又破壊せらるる虞絶無とは断言し難いと思ひます、随て此の憲法は左様な非常なる特例を以て――謂はば行政権の自由判断の余地を出来るだけ少くするやうに考へた訳であります、随て特殊の必要が起りますれば、臨時議会を召集して之に応する処置をする、又衆議院が解散後であって処置の出来ない時は、参議院の緊急集会を促して暫定の処置をする、同時に他の一面に於て、実際の特殊な場合に応する具体的な必要な規定は、平素から濫用の虞なき姿に於て準備するやうに規定を完備して置くことが適当であらうと思ふ訳であります」


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5)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(20)2016.8.4.


緊急事態条項は、危険、有害かつ

不必要である(その8)

戦後わが国は金森答弁を指針としてきた 

 緊急事態条項を拒否、排除した日本国憲法が制定されて以後、わが国は、いみじくも金森国務大臣(憲法問題担当)が答弁したとおり、「特殊の必要が起りますれば、臨時議会を召集して之に応する処置をする、又衆議院が解散後であって処置の出来ない時は、参議院の緊急集会を促して暫定の処置をする、同時に他の一面に於て、実際の特殊な場合に応する具体的な必要な規定は、平素から濫用の虞なき姿に於て準備するやうに規定を完備して置く」主義を貫いてきた。
そして、実際、各種の非常事態に対処するため、憲法の下位に立ち、憲法に適合することをそれなりに慎重にチェックされた諸法令が整備されてきた。それは以下に概観するとおりである。

非常事態に対処する諸法令・・・自然災害、テロ、戦争等に関して

①まず自然災害等に関して

 災害に関連するものとしては、災害救助法、災害対策基本法、大規模地震災害特別措置法、原子力災害対策特別措置法などを中心に災害法制が整備され、災害時の緊急対策が可能となっており、消防法、警察法、自衛隊法(災害出動)などによるマンパワーの動員も可能となっている。
 災害対策基本法には、内閣総理大臣の「災害緊急事態」布告により買い溜め、売り惜しみによる生活物資の不足を解消する、価格つり上げによる被災者の生活困窮と復旧・復興のための物資の滞りを防ぐ、差し迫った金銭債務弁済期を猶予して事業や生活の破綻を防ぐ、海外からの支援物資の救急受け入れを可能とするなど内閣に4項目の緊急政令制定権を付与するほか、内閣総理大臣に権限を集中する規定が置かれており、また被災地の市町村長に一定の強制権限が与えられている。
 災害救助法には、被災地を管轄する都道府県知事に一定の強制権限が与えられている。
 これらは、大災害に遭遇して、試行錯誤で作り上げてきた法制度であり、未だ百パーセント完璧なものとは言えないかもしれない。しかし、問題点があれば、それに即して改善をするというこれまでの行き方は決して誤りではなく、今後もその努力を続けるべきであろう。
 ただ問題なのは、法制度上の不備よりも、これらの法令を杓子定規に適用しようとしたり、逆に法令の趣旨に反する解釈、慣行がまかり通ったりして、被災地と被災者に混乱を招く事態がまま生じていること、日ごろの準備や訓練をおざなりにし、いざという時にスムースな対処ができない事態が生じていることなどである。

 大災害が発生するたびに、自民党のお偉方は、ここぞとばかりに緊急事態条項が必要だとご託宣を下し、右派メディアはこれを奉っている。しかし、これはなんとか憲法「改正」に手をつけたいという願望の吐露に過ぎない。


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テーマ:軍事・安全保障・国防・戦争 - ジャンル:政治・経済

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