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弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(21)緊急事態条項は、危険、有害かつ不必要である(その9)2016.8.5. 〜(25)(その13) 2016.8.13.
1)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(21)2016.8.5.


緊急事態条項は、危険、有害かつ

不必要である(その9)

国会議員の任期や選挙の特例をもうけることは必要か・・・序論

 憲法に、国会議員の任期や選挙に関して、大災害時の特例をもうけるべきだという議論がなされている。

 ご承知のように、憲法は、国会議員の任期を、衆議院議員4年(解散の場合には解散と同時に終了)、参議院議員は6年(3年ごとに半数改選)と定め、ごとに、衆議院が解散されたときは解散の日から40日以内に総選挙を行い、その選挙の日から30日以内に、国会を召集すべきことを定めている。

注:参考までに憲法の関連条文を掲げておくこととする。

(衆議院議員の任期)
第45条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
(参議院議員の任期)
第46条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
(総選挙、特別会及び緊急集会)
第54条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
(議事の定足数と過半数議決)
第56条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。


 大災害のときに、これでは不備があるのではないかという議論である。


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2)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(22)2016.8.7.


国会議員の任期や選挙の特例をもうける

ことは必要か



 大災害が発生したとき、当該被災地において、国政選挙の執行に支障が生じる事態があり得ることは、まぎれもない事実である。このような事態に対処するために、公職選挙法は「繰延投票」という方法を用意している。

注:公職選挙法第57条(繰延投票)
① 天災その他避けることのできない事故により投票を行うことができないとき又は更に投票を行う必要があるときは、都道府県の選挙管理委員会(市町村の議会の議員又は長の選挙については、市町村の選挙管理委員会)は、更に期日を定めて投票を行わせなければならない。ただし、その期日は、当該選挙管理委員会において、少なくとも五日前に告示しなければならない。
② 略
 

 被災地の都道府県選挙管理委員会は、この規定を適用して、被害の実情、復旧の見通しを勘案し、投票日を定めればいいのである。従って、近藤議員が言うように「国政選挙の選挙期日を延期するとともに国会議員の任期を延長することができないならば、大災害の発生という不可抗力によって、被災地では実際上選挙が行われなくなるおそれがある」などということはあり得ない。

 もっともこの場合、衆議院議員の総選挙であれば、当該被災地の小選挙区と比例ブロックからの議員選出が、参議院議員の通常選挙であれば、当該被災地の選挙区の議員選出と比例区全体の議員選出が、それぞれ繰延投票の結果を待たなければならない。

 そこで近藤議員は、この点にくらいつく。先の質問主意書、再質問主意書に引き続いて、翌2012年3月15日、さらに質問主意書を提出し、以下のように問いを発している。

 緊急事態が発生し、これによって大きな被害を受けた被災地の代表が最も求められている時に、その被災地から繰延投票が行われるまで衆議院議員が選出されないという事態は、まさに被災地の国民の参政権、憲法第十五条第三項で保障されるべき参政権が侵害されている事態であって、憲法上きわめて大きな問題であると考える。
これらを踏まえてもなお、緊急事態時に衆議院が解散されている場合、現行の規定の下で、憲法第十五条第三項に規定されている参政権は保障されていると言えると考えているのか。改めて、政府の見解如何。


 これではもはや憲法論、法律論ではなく、一政治家の心情吐露に過ぎない。案の定、野田内閣総理大臣の答弁書では、「国会の在り方に関することを前提としていることから、政府としてお答えすることは差し控えたい」と、またもやするりとかわしている。


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3)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(23)2016.8.8.


緊急事態条項は、危険、有害かつ

不必要である(その11)


世界の常識化と日本の常識

 著名な改憲論者・西修駒澤大学名誉教授は、1990年から2014年の間に制定された世界の102カ国の憲法を調べたところ、全てに緊急事態条項がもうけられていたと述べているとのことである。2015年5月7日衆院憲法審査会で、船田元自民党幹事(当時)は、早速これを持ちあげて、次のように主張している。

 特に、緊急事態条項におきましては、今後高い確率で起こると指摘されるいわゆる東京直下型地震などの大規模自然災害発生時などに国会議員の任期が延長できることなど、憲法においてあらかじめ規定しておくことが急務となっています。このような措置は、防災における最大の課題でもあり、統治システム整備の基本でもあります。しかも、これは憲法によってのみ規定できるものと考えております。
 ちなみに、駒沢大学名誉教授西修先生の調査では、1990年から2014年までに新たに制定された102カ国の憲法のうち、国家非常事態に関する規定は100%に達しているとのことであります。(同審査会議録)

 改憲勢力は、緊急事態条項は世界の常識であるとばかりに、その創設を推進しようとしているのである。しかし、戦争と武力行使の違法・禁止と国連による集団点安全保障を国際法の原則として打ち立てながら、未だその道半ばにして、軍事力による抑止力を頼みの綱とし、パワーポリティクスの真っただ中で試行錯誤している国際社会における常識は、必ずしもわが国の常識ではない
 わが国は、そのような国際社会から一歩抜け出して、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」、軍事力によらない国際平和を追求することを誓い、かつ明治憲法下にあって緊急勅令をはじめとする緊急事態条項の悪用、濫用によって軍部独裁とファシズムを招き、侵略と亡国の道を突き進んだことの反省に立って、明確な意思をもって緊急事態条項を拒否、排除したのである。


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4)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(24)2016.8.10.


緊急事態条項は、危険、有害かつ

不必要である(その12)

「緊急事態条項は世界の常識」は揺らいでいる・・・序

 確かに諸外国の憲法の多くは緊急事態条項を定めている。

 改憲論者は、このことを過度に一般化し、国家緊急権は国家の自己保存権であり、国家固有の権能である、などとの理由で緊急事態条項をもうけるのは当たり前のことだと声高に叫んでいる。

 しかし、そもそも国家緊急権なるものは、絶対君主制の時代には、そうした概念さえもなかった。それは絶対君主制が揺らぎ、あるいは解体されたときに浮かび上がってきた概念である。言い換えるならば、絶対君主制から近代立憲主義への移行時おけるアンシャン・レジームと新体制との鬩ぎあいの中で、新体制に刻み付けられたアンシャン・レジームの母斑である。
 歴史は飛躍するものではない。新しい高みといえども古いものをかかえている。また世界は一直線に前進するものでもない。必ず、現状維持や後退を志向する逆流があり、停滞と混乱を伴いながらジグザグに前進するものである。このことは既に戦争と平和の問題を論じたところで述べたことである。
 思い起こして欲しい。自衛権の概念は、無差別戦争論(戦争の自由、同盟の自由)の殻を突き破って生まれてきた戦争と武力行使の違法化・禁止の時代の子であったことを。国家緊急権なるものは、まさにこれと表裏の関係に立つものであり、やがて歴史の舞台からフェードアウトして行くことになるだろう。

 このことをいくつかの国の実情によって確認しておくこととする。

「緊急事態条項は世界の常識」は揺らいでいる・・・いくつかの国の実情

フランス

 フランスは、憲法に緊急事態条項を定めている。しかし、それはアルジェリア独立戦争時にド・ゴールによって発動された以後、既に封印されて50年以上に及んでいる。
 先般のパリ連続テロ事件に際しても緊急事態条項は発動されておらず、危急状態法という憲法の下位に立つ法律が適用されている。

注:フランスでは、2015年11月に発生したパリ連続テロ事件の後、危急状態法を適用して危急事態を宣言、テロ危険人物に対する指定場所での事実上の軟禁、劇場や居酒屋など多数の人の集まる場所の強制閉鎖、令状なしの捜索・押収、メディア規制など、警察権限の強化がなされている。危急状態法はその後、改正され、軟禁措置が取られた者に1日3度の警察への出頭義務を課する、前科のある者に発信装置付きのブレスレッドを装着して監視する、危険団体の強制解散、深夜帯でも無令状の捜索・押収を可とする等、きわどい措置までとれるようになっている。
 オランド大統領は、この改正法が憲法院(憲法裁判所)に憲法違反と判断されることを危惧して、その根拠条項をもうけるべく憲法改正案を国会に提出した。この憲法改正については強い異論もあり、帰趨が注目されていたが、憲法院が、この法改正を合憲と判断をしたところからオランダ大統領も憲法改正案を取り下げることになった。
 しかし、元老院(上院)は、政府による濫用を危惧して、国会によるコントロールを強化する決議をした。
 1789年に、「人及び市民の権利宣言」を発したフランスは、テロ攻撃にさらされて、人権よりも安全にギアチェンジしようとする圧力が強まる一方で、人権との折り合いをつけなければならないとブレーキをかける良識も未だ健在で、この綱引きのなかで、苦悩しているようだ。


ドイツ


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5)弁護士深草徹の徒然日記:緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(最終)2016.8.13.


緊急事態条項は、危険、有害かつ

不必要である(その13)

自民党改憲草案の緊急事態条項批判

 2012年4月27日、自民党は、日本国憲法改憲草案を公表し、その後部分的修正をしつつ、現在もこれを改憲案として維持している。そこには以下の緊急事態条項が置かれている。

第98条(緊急事態の宣言) 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

第99条(緊急事態の宣言の効果) 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。


 これについての批判は、ここまでお読みいただいた読者には、簡単なことだろう。敢えて指摘するならば、以下のとおりである。

 第一に悪用もしくは濫用のおそれが大きいこと。緊急事態の認定・宣言は内閣総理大臣に委ねられており、国会は事後審査をするに過ぎず、しかもその時期の明示もなければ、不承認の場合の法的効果の定めもない。

 第二に、緊急事態宣言の継続期間が不当に長期化するおそれがあること。まず最長100日はそもそも長い。それに国会の承認を得さえすれば何回でも更新できてしまう。

 第三に、内閣独裁を招くこと。内閣単独で発令できる緊急政令の対象事項に限定がなく、これにより法律を改廃することも可能である。このような強力な立法権を内閣に持たせることは、ナチスの全権委任法にも匹敵する。

 第四に、過度の人権侵害が行われ得ること。99条第3項では、制限を受ける人権に限定はなく、最大限の尊重などというが、「公益及び公の秩序」による人権制限を認める自民党改憲草案(第12条、13条)の規定とあいまって人権侵害の歯止めは何もない。

 第五に、解散の制限、国会議員の任期及び選挙の特例をもうける必要はないこと。

 そして最後に、これが一番重要であるが、この緊急事態条項は、憲法9条を国防軍創設海外派兵の承認、国防軍審判所設置と一体をなすものであること。自民党改憲草案は、日本国憲法の採用する現代立憲主義を骨抜きにし、いつか来た道を歩むことにつながるものである。


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テーマ:軍事・安全保障・国防・戦争 - ジャンル:政治・経済

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