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「福島原発事故による日本全土の放射能汚染マップ-チェルノブイリ原発事故による汚染と比較して」-(河野益近・西山文隆)『現代化学』2011年12月
「福島原発事故による日本全土の放射能汚染マップ-チェルノブイリ原発事故による汚染と比較して」-(河野益近西山文隆)『現代化学』2011年12月

「ちたりた」さん経由:

福島原発事故による日本全土の放射能汚染マップ-チェルノブイリ原発事故による汚染と比較して-2011年12月『現代化学』
河野益近西山文隆

日本全土にわたって広く生育する常緑樹の松は,福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染の初期から採取時までの状況をほぼ同ーの条件で記録している.
事故後に全都道府県から採取した松の葉の分析をもとに,日本各地に降り注いだ放射性物質の汚染状況を地図化し.チェルノブイリ事故後の分析との比較を行った.

チェルノブイリと福島の名前は多くの人が知っている.
そこは,原子力発電所が事故を起こし,人と環境に甚大な被害を与えた場所として.チェルノブイリの事故は1986年4月26日,今から25年前に起こった核暴走事故である.
そこから環境に放出された放射性物質によって周辺地域はいうまでもなく,チェルノブイリから8000km以上離れた日本も汚染された. では,すべての都道府県から原子炉の爆発に伴う放射性セシウム放射性ヨウ素が検出された(文献1).
福島の事故は2011年3月11日の巨大地震が発端となって起こった.外部電源喪失に伴う冷却機能の喪失によって, 6機ある原子炉のうち1号機から3号機までのそれぞれにおいて燃料の溶融が起こり溶けた燃料の一部は原子炉圧力容器の底にたまっていると推測されている(文献2).
その後,原子炉の状態はさらに悪化しているであろうとの報道もある(朝日新聞2011年8月8日).高温になった燃料被覆管と水蒸気との反応(ジルカロイ・水反応)により,大量の水素が発生したこれにより2号機では格納容器内で水素爆発が起こり,格納容器の一部が破損したと考えられている(文献2).広範囲にわたる環境の放射能汚染をひき起こしたのは, 1号機の水素爆発(2011年3月12日)と4号機を巻き込んだ3号機の爆発(2011年3月14日)によって, 1号機, 3号機, 4号機の建屋が破壊されたことによる.
福島原発事故で環境に放出された放射能量は現時点で63 -77万テラベクレル(TBq),チェルノブイリ原発事故の12-15%と考えられている(文献3). 水素爆発によって原子炉建屋から放出された放射性物質は,その爆発力によって上空へと昇り,風によって各地へと拡散していったと推測される.

放射能汚染状況を把握するための松葉の採取

日本各地に降り注いだ放射性物質の相対的な汚染状況を知るという観点から,各地で放射能を測定するための試料を採取した.われわれが放射性物質の検出のための試料として用いたのは,松の葉である.松は日本全体に生育する針葉樹であり,常緑樹でもある.そのため,放射能汚染の初期の状況から採取時までの状況を記録している.放射能汚染の状態を松葉と同じように記録しているものとしては土壌も考えられるが, 土壊は土質によって汚染情報の保存状態が異なるため,試料採取にあたっては注意が必要であり,したがって少数試料でその地域の汚染を代表させるのは難しい.その点.松葉は,ほほ同一の条件(今回は2010年春に芽が出たもの)で全国から試料を集めることができる.
実際に,各地の住民の協力を得て, 5月中に全都道府県で松葉試料を1カ所以上採取することができた採取地点は5月以後の追加採取分も含めて97カ所,一県での最大は7地点であった. 全県の採取には2カ月と少しかかっている.チェルノブイリ原発事故の際には,事故後1カ月の間(5月中)に全都道府県の試料47個を集めることができた.
日本のこの時期はまだ松の新葉が出ておらず, したがって事故後に芽吹いた葉が試料に混入する恐れはない.
集められた松葉試料は, Ge半導体検出器を用いて福島原発事故由来の放射性物質の測定が行われた.測定は広島大学と京都大学で行われ,測定に用いられた松葉は生重量で34g -115 g,測定時間は試料の放射能の強さによって異なり, 3000秒-400,000秒であった

http://silmarilnecktie.files.wordpress.com/2012/01/zu1.png

放射能汚染の現状

測定の結果,すべての都道府県の松葉から福島原発事故起源の放射能(I:MCs,137Cs) が検出され,放射能汚染は程度の差こそあれ日本全土に及んで、いることが確かめられた.ちなみに,福島原発事故以前は,同様の条件で松葉の測定を行っても,放射性セシウムを検出することは困難であった134CSは,ウランの核分裂によってつくられる安定な133CSが原子炉の内部で中性子を吸収することによって生成される放射性物質で,過去の核実験では生成されない.また半減期が2.062年であるため, 25年前のチェルノブイリ原発事故起源の134CSが2010年春に芽を出した松葉から検出されることはない.チェルノブイリ起源の137Csは,過去の核実験起源のI37Csの量と比べるとほんのわずかであり,沈着した土壌から大気へ飛散する量,土壌からの吸収による量は,今回の測定条件では検出困難なレベルである.
すなわち,松葉に含まれる放射能は,葉が生育する期間の大気中の放射能濃度を反映しているが,採取時期が異なれば,その相対的比較が難しくなる.そこで,採取時期が異なる各地の松葉試料中の放射能を比較するために,その測定結果をもとにして松葉中に含まれていたであろう放射能の最大値を推定した.この推定最大値は,各放射性物質の松葉中における減衰(半減期,生物的影響,環境的影響) (文献1) を考慮して求めた.この推定最大値をもとにして描いたのが放射能汚染を示す図である.
図1は松葉に含まれる放射性セシウム(J31CS+ 137Cs)の放射能レベル(単位は松葉の生試料1kg当たりの放射能)を10倍ごとに分類して色分けしたものである.図1の左側は25年前のチェルノブイリ原発事故が日本全体に与えた影響を.また右側は今回の福島原発事故の影響を示している.放射性セシウムに関していえば,チェルノブイリ原発事故,福島原発事故のいずれも日本のすべての都道府県にその放射能の影響が及んでいる.全国の松葉に含まれる放射性セシウムの推定最大値は,チェルノブイリ原発事故後は12-733 Bq/kg-fresh, 福島原発事故後は1-380,000 Bq/kg-freshであった.また137Csに対する134CSの割合は,チェルノブイリ原発事故後は0.49(標準偏差0.022),福島原発事故後は0.83(標準偏差0.032)である.この比はウラン燃料の燃焼度,いい換えれば,事故発生時に原子炉内に存在した放射性物質の割合を推定するために役立つ.

図2 松葉に含まれる放射性ヨウ素>>

図2は松葉に含まれる放射性ヨウ素(1311)の放射能レベルを放射性セシウムと同様に表示したものである.図の左右はそれぞれチェルノブイリ原発事故後,福島原発事故後である.チェルノブイリ原発事故後の測定では,すべての都道府県から放射性ヨウ素を検出したが,福島原発事故後については,測定開始時期,西日本地域での汚染レベルの低さなどの点から, 一部の都道府県で放射性ヨウ素を実測できていないこの図では,放射性ヨウ素が検出できなかった地域については,放射性セシウムを基にして放射性ヨウ素の量を推定している. 全国の松葉に含まれる放射性ヨウ素の推定最大値は,チェルノブイリ原発事故後は96-1600Bq/kg-fresh, 福島原発事故後は2-300,000 Bq/kgfreshであった.また1311の半減期は8.04日なので,現在は松葉中に放射性ヨウ素を見いだすことはできない.
これらの図から,チェルノブイリ原発事故に伴う放射能については, 日本全体がほぼ同じように汚染されていることがわかる.一方で、福島原発事故による日本の汚染は,非常に高濃度の県が福島県を中心にして存在するが,汚染のレベルを見ると,西日本(福島原発からの距離は京都で約540 km,沖縄で約1770km) では福島原発事故の影響よりも8000km以上離れたチェルノブイリ原発事故の影響のほうが大きかったことがうかがわれる.これは放出放射能量の差によるというよりも,福島原発が放射能を大量に放出した当時の風向きによるものだと思われる.フランスの大気環境研究センターがシミュレーションの結果として発表している137Csの土壌汚染地図(文献5) で,西日本よりもロシアの一部,アラスカ,米国西海岸のほうが高い汚染レベルになっているのも風向きによるものであろう.
いずれの放射性元素についても,同一県内で測定箇所が複数ある場合はその最大となる値をその県の代表としている.もちろん,各県の代表となった1カ所の測定結果が県全体の状況を示しているわけではない.それよりも放射能汚染の高い場所もあるだろうし,もちろん低い場所もある.しかし日本全体の放射能汚染状況をイメージするという目的は十分に達成できると考えている.

松葉中の放射能は大気中の放射能濃度を反映しているため,これらの汚染地図は.人々が呼吸によって取込んだ放射能の相対値をも示している.チェルノブイリ原発事故時の松葉と大気中の放射能の定期測定結果から,松葉中の放射能のレベル(Bq/kg-fresh) は放射性セシウムの場合0.0046 (標準偏差0.00079) 倍,放射性ヨウ素では0.0098(標準偏差0.00032)倍すれば大気中の放射能濃度(Bq/m3)に換算することができる.
松葉中の放射性セシウムの汚染レベル(Bq/kg-fresh)はまた, 2.6 (標準偏差1.8) 倍すれば概算の土壌汚染(Bq/m2)と見ることができる.この係数は,チェルノブイリ原発事故後の日本の松葉に含まれる放射性セシウムの放射能と放射性降下物の観測結果(文献4) から求めた値であり,標準偏差が大きいのは,土壌汚染が大気中の濃度だけではなく降雨などの影響を受けるためである.チェルノブイリ原発事故後,旧ソ速が定めた放射線管理を要する地域の基準は,放射性セシウムによる土壌の汚染が1Ci/km2(37,000 Bq/m2) 以上であった(Ciはキュリー).松葉の放射能レベルから考えると. 三つの県がその基準に該当する地域を含んで、いる.しかしチェルノブイリ原発事故の際に生じたようなホットスポット的な汚染を考えれば,管理を必要とする地域はもっと多くの県に及ぶことが予想される.

おわりに

観測される放射能量は初期段階に比べて二百万分のーに減った(朝日新聞2011年7月20日)とはいえ,いまだに大気中に放出され続けている.この放射能の放出が,ただちに私たちの汚染地図を書き換えることにはならないだろう.しかし, 10月の時点でも原子炉内部の状況の把握はできていない.新たな放射性物質の大量放出がないことを願うのみである.

参考文献
1. M. Kohnoほか,“Circumstances of pollution by radioactivity released from Chernobyl in Japan and in Belorus”,Japanese Slavic and East European Studies, 17, 53 (1996).
2. “Report of Japanese government to the IAEA ministerial conference on nuclear safety – The accident at TEPCO’s Fukushima nuclear power stations” (2011).
3. 「福島第一原発事故とその影響」,国立国会図書館ISSUEBRIEF NUMBER 718 (2011.6.28.).
4 “Radioactivity survey data in Japan”, N0 .76 (March1986), ISSN 0441-2516.
5. http://cerea.enpc.fr/en/fukushima.html 

**「フランスの大気環境研究センターがシミュレーションの結果として発表している137Csの土壌汚染地図(文献5) で,西日本よりもロシアの一部,アラスカ,米国西海岸のほうが高い汚染レベルになっているのも風向きによるものであろう.」 ”Atmospheric dispersion of radionuclides from the Fukushima-Daichii nuclear power plant”ー「福島第一原発からの放射性核質の大気拡散」に関する論文:必見です。**

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テーマ:原発・放射線量 - ジャンル:学問・文化・芸術

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